睡眠時無呼吸症候群は、眠っているときに、一時的に呼吸が止まってしまう病気です。呼吸が止まることで、血液中の酸素濃度が下がったり、血圧が急上昇したりするため、高血圧、糖尿病などの生活習慣病や、心筋梗塞、不整脈、脳梗塞など命にかかわる病気を引き起こします。また、安眠できなくなるので、起きている間に眠くなり、生活に悪影響をおよびします。
近年、睡眠時無呼吸症候群の方による交通事故が多く、テレビや新聞でも取り上げられることが多くなりました。国も対策に乗り出し、法律による規制が始まりました。睡眠時無呼吸症候群と交通事故の関係、その防止策について解説します。
睡眠時無呼吸と交通事故
睡眠時無呼吸症候群になると交通事故を起こしやすくなります
睡眠時無呼吸症候群になると、十分な睡眠がとれないために日中に眠気に襲われ、居眠り運転による交通事故を起こしやすくなります。調査によると、交通事故を起こす確率は、病気でない方よりも約7倍多いといわれています。
また、睡眠時無呼吸症候群が重くなればなるほど、交通事故を起こす危険性が高くなります。
睡眠時無呼吸症候群による居眠り運転で発生する事故は、次のような状況で多いとされています。
- ひとりで運転中
- 高速道路や郊外の直線道路を走行中
- 渋滞でゆっくりと走行中
出展 Severity of sleep apnea and automobile crashes. New England Journal of Medicine. 1989.
睡眠時無呼吸症候群が原因となった主な交通事故
- 平成15年(2003年)、山陽新幹線で運転士が居眠りをしたまま運転して、岡山駅で緊急停止しました(死傷者はなし)。運転士は、車掌に起こされるまで寝ていました。
- 平成17年(2005年)、名神高速道路でトラック・バスなどを含む多重事故が発生し、7人が死傷しました。
- 平成20年(2008年)、愛知県で、大型トレーラーが赤信号の交差点に進入し、横断歩道を横断中の男性が死亡しました。
- 平成21年(2009年)、長崎県で、遊漁船が岩場に衝突し釣り客ら3人が死傷しました。
- 平成24年(2012年)、関越自動車道で走行中のバスが、運転手の居眠りにより防音壁に衝突し、乗客45人が死傷しました。
- 平成24年(2012年)、渋滞中の首都高速道路でトラックがワゴン車に衝突し、6人が死傷しました。
- 平成26年(2014年)、東京で路線バスの運転手が、居眠り運転によりバスが電柱に衝突し、19人が怪我をしました。
法律による罰則が強化されました
平成26年5月、「自動車運転死傷行為処罰法」が施行されました。この法律では、病気の影響により、走行中に正常な運転に支障が生じる危険性をあらかじめ認識していながら自動車を運転し、その結果、病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥った場合も、飲酒運転などと同様に厳罰に処されるようになります(被害者が亡くなった場合、最高刑が懲役15年)。
対象の病気の一つに、「重度の眠気の症状を呈する睡眠障害」があり、睡眠時無呼吸症候群がこれに当たります。
これまでは、睡眠時無呼吸症候群であることがわかっても、刑事罰を問われないこともありました(損害賠償など民事責任は問われます)。しかし、現在は、睡眠時無呼吸症候群にかかっていて居眠り運転による交通事故を起こした場合、賠償金を払う民事責任に加えて、刑事責任を問われることになります。
出展 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律に関するQ&A. 法務省.
運転免許の取得・更新にも注意が必要です
平成26年6月の道路交通法改正により、運転免許証を取得したり、更新したりする際に、病気があるかどうかを調べる質問票に答えて提出することになりました。質問票には、睡眠時無呼吸症候群など「重度の睡眠障害」があるかどうかの項目があります。このとき、病気があるのに隠すなど、うその記載をした場合、罰則の対象となることがあります。
その結果、公安委員会が病気の可能性があると判断した場合は、診断書の提出を求められ、それまでは運転免許の取得や更新ができなくなることがあります。
交通事故を起こさないようにするためには
病気が心配な方は検査を受けましょう
睡眠時無呼吸症候群による交通事故を予防するためには、検査による客観的な評価が第1歩です。
運転中や仕事中に強い眠気を感じる方、いびきの強い方、仕事で自動車の運転する方などは、検査を受けましょう。
生活習慣を見直しましょう
- 肥満は睡眠時無呼吸症候群の一番の原因ですので、体重を減らしましょう (減量)。
- 寝る前にお酒を飲むにはやめましょう。
- タバコは止めましょう (禁煙)。
- 仰向けで寝ると気道をふさぎやすくなるので、横向きにして寝ましょう。
きちんと治療を受けましょう
重い睡眠時無呼吸症候群には、CPAP(持続陽圧呼吸)療法が有効です。CPAP療法とは、鼻から、機械で圧力をかけた空気を送り、空気の通り道(気道)を広げて、睡眠中の無呼吸を防止する治療法です。健康保険を利用して治療が受けることができます。
重度の睡眠時無呼吸症候群にかかっている方に、運転シミュレーターをしたところ、健康な方に比べて事故(衝突回数)が多かったです。ところが、CPAP療法を行ったところ、運転シミュレーター能力は改善し、正常な方と同じでした。
実際、年間の事故発生率は、治療前は、病気でない方よりも多かったですが、CPAP治療を開始した後の3年間は、病気でない方と同じでした。
つまり、重度の睡眠時無呼吸症候群と診断されても、CPAP治療など適切な治療をうけることで、病気でない方と同じように運転することができるようになります。ただし、そのためには、きちんと装置を着ける必要があり、目安として、1日4時間以上を、70%以上の日に使用することが必要とされています。
出展 Reduction in mortor vehicle collisions following treatment of sleep apnea with nasal CPAP. Thoraxs 2001.